事業承継時に経営者保証を解除するポイント
事業承継は、中小企業が長年培ってきた価値を次世代に引き継ぐ重要なプロセスですが、多くの経営者が直面するのが「経営者保証」の問題です。経営者保証とは、金融機関が融資を行う際、経営者個人が会社の借入金に対して連帯保証を行う仕組みであり、特に中小企業では一般的です。しかし、これが事業承継の際に大きな障壁となることがあります。本コラムでは、事業承継時に経営者保証を解除する必要性とその課題、そして実現のためのポイントを解説します。
- 事業承継時に経営者保証を解除するポイントがわかります。
経営者保証がもたらす課題
経営者保証は、事業運営中のリスクだけでなく、事業承継時にも深刻な影響を及ぼします。以下は代表的な課題です。
1.後継者の負担増加
事業承継時に経営者保証が継続されると、後継者が会社の借入金に対して個人として責任を負うことになります。これにより、後継者は経営リスクだけでなく、個人の財産を失うリスクも背負うことになり、承継をためらう要因となることがあります。 データとしては少し古いですが、平成29年度の中小機構の調査によると、事業承継を拒否する理由の59.8%が個人保証を理由に承継を拒否しているようです。(下記は中小企業庁から公表されている資料です。)
2.承継時の外部後継者の選定困難
親族外の第三者を後継者に選定する場合、経営者保証を課すことが難しいケースが多くあります。特に外部人材は、個人の財産を担保にすることに対して消極的であるため、事業承継が成立しないこともあります。その場合、経営者保証は現経営者が引き続き課されることとなります。
3.経営の自由度の低下
経営者保証が続く限り、後継者は新規事業や大規模投資など、リスクのある経営判断をためらう傾向があります。これにより、会社の成長や変革が制約される可能性があります。
経営者保証解除の実現に向けたポイント
1.事業承継特別保証制度の活用
経営者保証を不要とする新たな信用保証制度として、「事業承継特別保証制度」が令和2年4月より運用されています。次の(1)と(2)の両方を満たす中小企業が対象となります。
(1)3年以内に事業承継(=代表者交代等)を予定する「事業承継計画」(※)を有する法人、または令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した法人であって、承継日から3年を経過していないもの ※信用保証協会所定の書式による計画書が必要
(2)次の1から4の全ての要件を満たすこと
- 資産超過であること
- 返済緩和中ではないこと
- EBITDA有利子負債倍率((借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費))10倍以内
- 法人と経営者の分離がなされていること
2.「経営者保証ガイドライン」の活用
平成26年に策定された「経営者保証ガイドライン」は、経営者保証を不要とするための指針を示しています。このガイドラインに基づき、財務状況や経営方針を見直し、保証解除を金融機関に働きかけることが可能です。また、事業承継時には、原則として前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めないようにするなど、事業承継に焦点を当てた経営者保証ガイドラインの特則も令和2年4月から運用されています。 「経営者保証ガイドライン」に記載されている、経営者保証解除のポイントは次の3つです。
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法人と経営者との関係の明確な区分・分離
経営者個人と会社の資産や取引を分離し、 会社が経営者に依存しない体制を構築 します。(経営者個人の資産で会社の借入金を補填しない、会社の事業用資産と経営者個人の資産を明確に分ける。) - 財務基盤の強化
経営者個人の資産を借入金返済の手段として確保しなくても、 法人のみの資産及び収益力で借入金の返済が可能 と判断し得る財務状況にする必要があります。 -
財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
経営者は、資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等を、 金融機関に適時開示 することにより、 経営の透明性の確保 に努めます。
3.専門家の活用
経営者保証解除には、金融機関との交渉が必要になるため、中小企業診断士や税理士、弁護士などの専門家を活用することで、手続きがスムーズになります。
4.計画的な事業承継の準備
経営者保証解除は短期間で実現するものではありません。事業承継の計画を早期に立て、 数年単位で財務改善や交渉を進めることが重要 です。
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